取材体験記『特定非営利法人 なこそ授産所』

なこそ授産所外観

法人本部(住所) いわき市仁井田町寺前9-1
作業所(住所)  いわき市錦町重殿15
活動内容:
特定非営利法人「なこそ授産所」は、利用者の方々の自立生活にむけた職業訓練をはじめとして、地域交流にも力を入れて活動している障害者就労支援事業所である。また、同事業所の商品「手作り味噌」は、添加物を使用しない調理法を30年以上守り続けている自慢の商品だ。

1.なこそ授産所を訪ねるにあたって

私たちは今回、なこそ授産所に訪問取材をさせていただいた。実際に作業所にお邪魔し、そこで働くみなさんが日々どのようなお仕事をされているのか、またどんな一日を過ごされているのかを、私たちも一緒に作業に参加するなかで学ぶことになった。

事前に『いわきユニバーサルマルシェ ガイドブック』などを読み、取材の準備をしていたが、事業所へ向かう道中、これがはじめての取材だった私たちは緊張と楽しみでドキドキしていた。

2.作業に参加してみて感じたこと

私たちがなこそ授産所にお邪魔した際、みなさんがしていた仕事は防虫剤の梱包だった。
棒状の防虫剤をトレーに8個つめたあと、その上に厚紙をのせ、まとめて袋につめる。一見簡単にできるように思えたその作業は、しかしやってみると非常に難しいものだった。たとえば、すでにその作業をやっている方々はみな、1~2分くらいでワンセットを終わらせているのに対し、最初のころ、私は5分もかかってしまった。
作業写真

こうやって、見よう見まねでなんとか作業のなかに入っていくと、私の近くで作業していた方がおり、彼はそこで一番袋詰めがうまいということを聞いたので、「すごく気を遣う作業をすばやくやっていてすごいですね」と声をかけさせてもらった。すると、「最初は難しかったけれど、みんなで少しずつ慣れていったよ」と、教えていただいた。

なこそ授産所では、この防虫剤の仕事以外にも、「コースター制作」や「ニンニクばらし作業」など、様々な仕事をしているという。そこで、事業所の責任者の方に、「どうしてこんなにたくさんの仕事をしているのですか?」と尋ねてみた。すると、事業所の仕事のメインはエステー株式会社から受託した仕事であり、また他にも施設外就労や古紙回収、雑巾づくりや便利屋の作業にも取り組んでいること、そしてそうした工夫を通して、いつも仕事がある状態を維持できるように心がけていることを教えてもらった。作業に参加したこともそうだが、そうした事業所の工夫が「利用者の工賃アップにもつながっており、また事業所で働くメンバーが充実した毎日を過ごし、成長していける機会になる」というスタッフの方の言葉も強く印象に残っている。(服部)

3.作業の中での雑談

他のメンバーと同じように、私も一緒に作業に参加させてもらった。最初は慣れないことだらけだった。そのため、少し困って、近くで作業していた方に「コツとかってありますか」って聞いてみた。すると、「ここはこうやってこうすると、、、」と、その方は身振り手振りを交えて教えてくれた。だが、言われたことをやろうとしたものの、やはり難しい。その様子を見た方は、「さすがに最初は難しいよね」と言って笑ってくれた。

作業中の雑談

そのあとも、「大丈夫ですか」、「なれましたか」、と仕事の最中にもたびたび、その方は気を使ってくれた。いつの間にか、会話が弾んでいることに驚いている自分がいた。仕事にも慣れてくると、プライベートの話もするようになった。「ミスチルとかGLAYとか好きですか」。そう尋ねられたので、思わず楽しくなって「あー!ミスチルは好きです!同じですね!」と応えていた。「そうですか!趣味が合ってよかった!」。そのあとも、好きなアーティストなどの話で花が咲いた。黙々と作業するものだと思っていたけれども、その時間がとても楽しくて、あっという間に過ごしてしまっていた。(小堀)

4.まさか歌を披露することになるなんて

実は、他のメンバーはともかく、私はその日、朝から凄く緊張していた。上手く現場に溶け込めるか、あるいはどんなことを話したり聞いたりすればいいのだろう。車の中でみんなとたわいもない話をしながら、でも一人さりげなく気になっていた。

なこそ授産所に着いて、すぐ一緒に作業をすることになった。そしてまず、作業をしながら事務所のスタッフの方と少し話をするようになった。きっかけは、ゼミ仲間の小堀さんが他のスタッフの方と楽しそうに趣味について話しているのがたまたま聞こえてきたことだった。私も、少し自分の趣味について話してみようと思ったわけだ。

その考えを実行に移そうと、昼食の後、趣味のことで話の輪に参加してみると、趣味の話で盛り上がった。そのなかで、Mr.Childrenの曲が話題になったので、少しやる気になった私は、「軽音部でMr.Childrenのコピーバンドをやっていて、そのボーカルをやっている」と自慢げに話してしまった。すると、その方に「歌ってみてください」とお願いされ、実際に歌を披露することになった。私が歌ったのはMr.ChildrenのTomorrow never knowsと一青窈のハナミズキ。ハナミズキはその場にいたみんなが知っている曲だったので、今度は全員でハナミズキを歌った。やはりみんな歌が好きだということを改めて実感した。(高橋)

5.こぼれ話

取材を振り返ってみるとまず、作業中のみなさんとの会話を思い出す。

例えば、作業中に「サッカーが好きで試合を見に行きたい」と話してくれた方。かれに「サッカーのどんなところが好きなの」と尋ねると、「ボールを蹴るのが楽しいから好き」と答えてくれた。そのときの笑顔や口ぶり。お昼時におひるご飯をご一緒させていただいていると、私たちもいただいていたカレーライスについて、それを作った方に「おいしいですか?」と聞かれたり。そこから、「野菜を切るのが大変だったけど楽しかった」と、その人はカレー作りについて色々なことを教えてくれた。そんな何気ない作業中の会話に、わくわくしながら入り込んでいる私がいた。

ほかにも、一緒に取材していたメンバーの、それまで知らなかった顔に気づくところもあった。作業中、「辛い物が苦手で辛口のカレーが食べられない」と言う小堀君のこと。辛い物などは大の好物だと彼のことを勘違いしていた私はそのときとても驚いてしまった。それは近くにいた事業所の方も同じだったようで、「辛い物に強そうだと思っていたから意外」と仰っていた。また、その話の流れから、私とその利用者の方がお互いにわさびが苦手であるという共通点があることにもびっくりした。小堀君について付け足すと、こうした会話をしながらも、驚くほどの集中力で彼はいつの間にか作業に習熟していた。それもまた驚きだった。事業所の方々の、そして普段大学で接している仲間の新たな素顔を見ることができたのも、私にとって、この取材の収穫だった。(江井)

取材・記事作成(江井・小堀・高橋・服部)